ヨルゴス・ランティモス監督作の『女王陛下のお気に入り』を観ました。
18世紀初頭のイングランドを舞台にアン女王と侍従長のサラそして侍女のアビゲイルの様子を描いた作品です。
時代はスペイン継承戦争下にあり継戦派と講話派で議会は紛糾し、サラの夫であるマールバラ卿はヨーロッパの戦線に赴きサラは夫の代弁者として女王に継戦を進言します。
ただ継戦する場合だと土地税を2倍に引き上げないと戦費が尽きてしまうと野党から指摘されアン女王は両者の間で揺れ動き、持病の通風にも苦しめられています。
そのような中でサラの従姉妹で没落貴族の娘であるアビゲイルが宮殿に職を求めやってくるのでした。
ここからアビゲイルのバリー・リンドンのような下剋上が始まります。
演出も『バリー・リンドン』を意識しているようで、ロウソクの灯火がほのかに照らす夜の宮殿は幻想的な与えます。
アビゲイルはただ侍女として仕えにやってきたわけではなく大きな野心を抱き、それは上流階級への復帰と資産の獲得でした。
表向きには優雅な貴族の生活が映し出されますが、その裏では自身の保身に明け暮れ没落するかもしれない恐怖と常に隣り合わせにあります。
一挙手一投足が自分の未来を左右するという極限状態にあり、そのような様子を見るともし私が貴族になったら絶対ストレスで体を壊すだろうと思います。
ただ今作で極限状態にあるのはアン女王で、アビゲイルはそのような状況の中で自分の野心を隠しつつアン女王に着実に近づいていき、アン女王とサラがただの君主と侍従の関係ではないことを知るのでした。
そしてアビゲイルはサラの地位を我が物にしようと策略を巡らせ大胆な手段を行使します。
アン王女は次第にサラからアビゲイルへ心移りし、自身が弱っている時にこのような献身的な人に出会ったら心移りしても仕方ない。
そして君主がこのようなことになったら国家運営に関わってくるという恐ろしさも映し出されています。
しかしもっと恐ろしいのは大切な人を追いやり自分を利用する人を身近に置いてしまったその後を今作は描いています。
アビゲイルがアン女王の信頼を得て上流階級と資産を手に入れてからの二人の様子は倦怠期の夫婦のようです。
アン王女もアビゲイルが自身の権威と権力を利用するために近づいてきたと薄々感づき、アビゲイルのある行動でそれは確信に変わるのでした。
君主の前で気を抜いていい時などないという唐突なラストを迎え私は呆然としてしまいました。
おそらくアビゲイルも同様の気持ちであったでしょう。