ロバート・シオドマク監督作の『殺人者』を観ました。
とある町で殺された男を調査する保険調査員のレアドンによって男の素性が段々と明かされていくというストーリーです。
殺された男はバート・ランカスターが演じ、ピート・ランドという偽名で給油所に勤めかつてはザ・スウィードというリングネームで名を馳せたボクサーでした。
そして本名はオーレ・アンダーソンだと判明し、どうやら過去に強盗事件に加担していたことが分かります。
強盗事件に加担するきっかけは右手の怪我が原因でボクサーを引退し警察官の友人からの一緒に働こうと誘われるも断り街へ消えていき、あまりよろしくない人々と交友を重ねるようになりパーティーである女性と出会うのでした。
若く美しい彼女の名前はキティ・コリンズ。演じたエヴァ・ガードナーも20代前半とは思えない存在感を放っています。
ボクサーを引退し傷心の中にあるアンダーソンは彼女に惹かれ、ここから事態は複雑になっていきます。
アンダーソンはその後に彼女を庇って懲役3年の刑に処され刑務所から出所すると強盗団にスカウトされるのでした。
強盗団の首領・コルファックスに会うと傍らにキティがいました。
こうしてアンダーソンとコルファックスはキティの掌の上で転がされていくのです。
ストーリーの展開も早く重要と思われる場面も省略されるなど事の真相を捉えるのはかなり難しい作品です。
題名『殺人者』とあるように今作では殺人のシーンが散見されるも、その殺人シーンは殺人の様子を直接には撮らずに創意工夫を巡らされています。
例えば殺し屋二人がアンダーソンのアパートで彼を銃殺するシーンでは、殺し屋二人がリボルバー彼に向け次にアンダーソンの絶望と諦めが混じった表情を浮かべたショットに移り殺し屋は銃弾を彼に浴びせるのでした。
その絶命していく様を手すりを掴んでいる手を映すだけで表現しています。
そして今作の運命の女(ファム・ファタール)ことキティ・コリンズは美しいだけの添え物的存在というより作品全体を謎に引き込むミステリアスな存在であると印象を受けます。
彼女はこの作品でゲームチェンジャーの役割を与えられ、アンダーソンとコルファックスはその存在にどんどんと巻き込まれていくのでした。
彼女がここまで謎めいた存在である理由は彼女を語る人物が限られ、その全容を捉えることができないためであり、そしてエヴァ・ガードナーはまだ俳優としてキャリアが浅いためかセリフもあまりないことが殊更謎を深めていきます。
しかし、ただ立っているだけでそのようなミステリアスな雰囲気で周りを包むエヴァ・ガードナーの天性の才能がその根幹にあります。
これがスター性やカリスマ性というものなのでしょう。
ファム・ファタールは美貌よりもカリスマ性が必要であるように思う一作でした。