本広克行監督作の『サマータイムマシン・ブルース』を観ました。
夏真っ盛りの午後、SF研究会の部室に突如タイムマシンが現れたので昨日壊したエアコンのリモコンを取りに過去へ行こうというストーリーです。
ヨーロッパ企画の名作戯曲を原作とした2000年代の青春映画で、舞台は風情ある田舎街の大学。
特にSFを研究しているわけでもないSF研と部員が2人になりSF研に部室を乗っ取られたカメラクラブのメンバーたちが主要人物です。
本作のオープニングはダラダラとしたSF研メンバーの草野球とその様子を撮るカメラクラブの部長と思われる伊藤がカメラを構えています。
ちなみに伊藤を演じているのは真木よう子さんでもう一人のカメラクラブ部員は上野樹里さんです。
この二人がいてクラブ存続の危機とはどういうことなのでしょう。
これだけ見るとラブコメ感がありますが、SF研のメンバーは伊藤の前で格好をつけるわけでもなく伊藤は特定の誰かをファインダー越しに見たりはしません。
本当にただダラダラと草野球をしています。
このだらけっぷりが今作の魅力で、私にとっての青春というものを感じます。
だらだらと友達と楽しく夏の午後を過ごすなんともいえない雰囲気が画面越しに伝わります。
またSF研の部室もヴィレッジ・ヴァンガードの棚のようによく分からないものがゴチャゴチャと並んでいる様子も最高です。
このだらけきった空間作りは素晴らしいの一言に尽きます。
そこに突然2030年からやってきたタイムマシンと未来人・田村くんがやってきますが、田村くんは未来人のくせにかなりもっさりとしています。
2030年側に近い現代から見ても田村くんはもっさりしている。
こうしてSF研は過去と未来に最大99年間行き来できるタイムマシンを手に入れるわけですが、彼らは二・二六事件とか建設中の東京タワーを見に行ったりはせずタイムマシンで昨日に戻りコーラをこぼして壊れる前のエアコンのリモコンを取りに行きます。
理由は涼しく過ごしたいの一心で、このスケールの小ささとリモコンをどうにかしようという熱心さを忘れタイムトラベル先の昨日で遊んでしまう無軌道っぷり。
この緩さに観ている側もリラックスします。
本作は主要人物たちだけでなく、個性豊かな脇役の人々も魅力です。
万年助手のポンコツSF研顧問・ホセにスタートレックのコスプレをしてチケット売り場でうちわを仰いでいる名画座の支配人に昔話をするとキャラが変わる甚平を着た用務員さんとこの大学に入学したくなってしまう面々が出てきます。
これだけ緩くだらけきっているのに、ブルースとタイトルについているのはなぜなのかは最後に分かります。
SF研のメンバーの一人がタイムマシンのせいで片思いが成就しないかもしれないことが示唆されるからです。
ただ田村くんが偽名を使っていたとすればまだ可能性はあるので頑張ってほしいとしかいえません。
夏を感じる一作でした。