
警官3名を殺害し無期懲役となったニキータが政府の特殊工作員として雇われ暗殺に従事するというストーリーです。
前作の『グラン・ブルー』では卓越した潜水能力をもつフリーダイバーのジャック・マイヨールを描き、今作では卓越した戦闘能力をもつ工作員のニキータを描いています。
優れた才能を持ちながらもその能力に苦しめられる主人公や青が基調の画面構成もさながら『グラン・ブルー』の陸上バージョンといった趣です。
戦闘能力に秀でた政府の工作員であるならば国家に忠誠を誓い敵対勢力を全滅させる意気込みで任務を遂行するプロフェッショナルなイメージが湧きますが、冷静に考えるとこんな強靭な精神を持った人間は各国の選りすぐりのエリートといえど非常に限られているとしか思えません。
そのような映画の題材にうってつけのエリート工作員とは異なった存在がニキータです。
ニキータは元々クスリ欲しさに街の薬局を襲っていたような不良少女であったので選りすぐりの精鋭工作員のようなバックボーンを持っていません。
彼女はその戦闘能力を政府に買われ否応なく暗殺任務が生業になっている悲劇的な人物で、それが今作を見応えあるアクション映画へ変えています。
作中では任務を途中放棄することは自身の主義に反するという本物のプロフェッショナルである掃除人のヴィクトルが登場します。
ヴィクトルはソ連大使の機密情報漏洩に関する任務の遂行が困難になっているニキータの元に現れ、大使のボディガードを射殺し浴室に遺体を入れて塩酸をかけて処理をする情け容赦のなさを披露しています。
本来は殺害する予定がなかった大使までこの件で死んでしまい、その一部始終を見ていたニキータが泣き崩れているとヴィクトルは彼女の胸ぐらをつかみ「それ以上泣き言いったら顔を溶かすぞ。」とナイフで彼女を脅すのでした。
ヴィクトルとニキータの仕事に対する姿勢の違いは生き方の違いが反映されています。
ヴィクトルは掃除人としての仕事を着実に行うことに重点を置き、ニキータは仕事よりも恋人のマルコとの生活を大切にしたいと願っています。
なのでヴィクトルのように大胆な行動をすれば自身の生命に関わり、当然マルコにもその被害が伝わっていきます。
しかし、このような四六時中臨戦態勢な特殊工作ではニキータのようなワーク・ライフ・バランス志向は受け入れられません。
またニキータも仕事についての苦悩をマルコに打ち明けることができず一人で抱え込むしかありません。
ある日マルコはニキータがどのような辛い状況にあるか全てを知っていると彼女に伝え、ニキータはおそらくどこかに亡命し工作員の職務を放棄します。
なぜマルコがニキータの本当の素性や仕事内容を知っていたのか。
多分愛の力です。
人間味あふれる暗殺者を描いた作品でした。