衣笠貞之助監督作の『狂つた一頁』を観ました。
精神病院を舞台に病棟の小使と患者たちを描いたサイレント作品です。
ウィキによると日本初の前衛芸術映画のようで、ドイツ表現主義などのヨーロッパの最先端芸術活動より影響を多大に受けているそうです。
私は『カリガリ博士』を観たことがないので影響については何とも言えませんが、作中に現れたぐにゃ~っと顔や人物が歪んだりする表現などにその影響が現れているのでしょう。
そのような前衛表現にじめっとした湿度が高い日本的な質感を思わせる映像に私はリングに出てくる『呪いのビデオ』を思い出しました。
『呪いのビデオ』を製作された方は本作から影響を受けたのだろうか
陰影のコントラストが効いた映像はドイツ表現主義絵画の力強い筆使いを感じます。
普段からヨーロッパの芸術映画に触れている都市部のインテリのような理解ある少数派へ向けて製作されているためか今作には自由な発想による映像表現のみで字幕などは一切ありません。
公開当時はもしかしたら活弁入りだったのかもしれません。
そして100年近く経た現在に観ても未だ前衛に位置する作品だと思います。
まず舞台となる精神病棟は患者を鉄格子がついた病室に入院させています。
その様子は病室の印象よりも独居房のようで、病院というより監獄といったほうが適していています。
その病室に入院している踊り子は日中ずっと踊っているようで、入院している苦悩や不安と踊り子をしていた時の輝かしい思い出を舞踊のみで表現する姿は完全にコンテンポラリーダンスです。
その踊り子の隣の病室には目が虚ろな女性が壁を眺めています。
どうやら女性用病棟であることが察せられ、そこに小使の男が現れます。
小使の男は彼女に対して同情的な視線を向けガラス玉を差し出したりして気持ちをなだめようとしているようです。
そんな小使の男の元に一人の娘がやってきます。
この娘はどうやら目が虚ろな女性の娘のようで、小使の男は面会に訪れた娘を見てひどく驚くのでした。
娘がいたことに驚いているのか病人の面会に訪れる人に会ったことに驚いているのかは判断がつきません。
目が虚ろな女性の役名が妻なので、もしかしたらこの女性は小使の男の妻で訪れたのは実の娘であるのかもしれません。
そして小使の男は妻を病室から出して娘の結婚式に連れて行こうと画策するというのが大まかなストーリーであるように思います。
今作で最も印象に残ったのは能面を患者たちにつけ皆で笑い合うシーンでした。
このシーンの異様さに禍々しさと悲壮感を能面をつけ笑い合うだけで表現しています。
私は本作を深夜に観て、その夜のトイレに行くのがちょっと怖くなっていました。