ののの・ド・メモワール

その日観た映画や本や音楽の感想を綴ったりしています

閲覧いただきありがとうございます。
日記のように色々なこと(主に読書、映画、音楽)のアウトプットをしていきたいと思います。まれに雑記も書きます。
実用的なことは書けませんがよろしくおねがいします

飛ばねえ豚はただの豚だ『紅の豚』

紅の豚

 宮崎駿監督作の『紅の豚』を観ました。

飛行艇時代のアドリア海にて空中海賊を相手にする賞金稼ぎポルコ・ロッソの物語です。

こんな説明不要だと思うほど認知され尽くしたジブリの名作です。

先日youtubeで宮崎監督がサンテグジュペリが飛んだ郵便航路を旅するドキュメンタリーを観ていると道中で立ち寄った飛行機博物館でエンジンの部品を見つけた宮崎監督がキャブレターの形状について熱く語っている様子が映されていました。

宮崎監督の飛行機愛は私の想像の遥か上をいっており正直ちょっと引いてしまうくらい語っています。

 そんな彼が満を持して手掛けた今作は飛行機愛に溢れています。

まずポルコが乗機するサボイアS21は戦闘飛行艇の試作機として1機のみ製造されたという設定です。

しかし、このサボイアは大量生産しなければならない戦闘機としては曲線部が多く木製モノコック構造というややこしそうな構造です。

全く大量生産に向いていないこの飛行艇は工業製品というより工芸品といったほうがよさそうな気がします。

 そして戦闘機なのに線が細くなめらかでここまでくるとオートクチュールの高級工芸品の域に達しています。

そのためかサボイアは非常に女性的な印象を与える飛行艇でピッコロ社でのリストアが女性たちによって行われたのも偶然ではなさそうです。

 今作では「飛行艇パイロットに嫌なやつはいない」と言わんばかりに登場人物たち全員が清々しく爽やかな人々です。

ポルコは空賊を発見しても徹底抗戦することはなく、エンジンに2発ほど機関銃の弾を当てて撃退し空賊のマンマユート団も慣れた様子をしています。

ポルコと空賊たちの間には「空以外で戦わない」という不文律があるようです。

そしてポルコに撃退されて辛酸をなめている空賊達は連合を組み、アドリア海で海賊行為に及びますが、いざ豪華客船を見つけてもお互いに譲り合っている様はユーモラスです。

功名心に駆られアドリア海にやってきたアメリカ野郎のカーチスもいいキャラをしています。

彼はポルコを付け狙う悪役ではなく空のライバルとして正々堂々と挑んでくる姿が気持ちいいです。

アドリア海の荒くれ者たちが唯一心を落ち着かせる洋上ホテルを経営するマダム・ジーナとポルコの関係も干渉しすぎないほどほどの距離感を保った交流もかっこいいです。

彼らは「アドリア海飛行艇を愛している」というコモンセンスを共有しているから空賊や賞金稼ぎという物騒な職業に似合わない調和が保たれているようにも思います。

そんな彼らの姿にミラノからやってきた航空機エンジニアのフィオも感化されていきますが、ポルコは「ゴロツキにはなるな」と突き放す姿はハードボイルドでかっこいい。

ポルコは最後の最後までずっとかっこいいままでした。

 もしジブリが宮崎監督に頼らずに作品を発表するようになっていたら、宮崎監督は飛行機愛溢れる趣味全開な今作のような作品をもっと多く製作していたのかもしれないと思うと悲しく思う次第です。