江戸川乱歩といえば明智小五郎や少年探偵団が有名なミステリー作家ですが、私は怪奇小説の方が好きです。
・人間怖い!
・大正怖い!
・文章怖い!
です。
乱歩が書く怪奇小説の特徴は幽霊などが出てこず人間の異常性に焦点が向けられている点だと思います。
そしてこれがめちゃくちゃ怖い。やっぱりなんやかんや言いつつ人間が一番怖い!
次に舞台が大正時代なのも不気味さに拍車をかけています。
もし現代が舞台であったら登場人物の行動などに「えーそんなわけないやん」と思える心の余裕がほんの少し生まれる気がするのですが、しかし大正時代や昭和初期にそれを期待するのはかなり難しいと思います。
私は100年前の庶民の暮らしや風俗に詳しくないので、乱歩作品の現実と虚構の境目が非常に曖昧です。
これが怖さを倍増させています。
これらに付け加え文章表現もまた怖さを引き立てます。
全体的にぬめぬめした文体で書かれています。
質感というか触感がじめじめしている感覚です。
このように怖い要素しか詰まっていないのが江戸川乱歩の怪奇小説です。
私は角川ホラー文庫から出版されている江戸川乱歩ベストセレクション・芋虫を読んでいます。
・芋虫 江戸川乱歩
こちらは表題作になります。
戦争で手足がなくなり耳も聞こえず声も出せなくなった須永中尉と介護する妻の時子の物語。
そして作中には伏せ字がたくさんあり、2人の生活の全容は掴めません。
私はこの想像するしかない伏せ字の場面が一番怖かったです。
時子は完全に介護疲れで精神はもう限界を迎えているのが伝わってきます。
誰にも相談できず、須永中尉の上司であり2人の面倒を見ている鷲尾少将からは「頑張ってください」と言われるだけの生活。
須永中尉の目線に立つと今度は3年近く寝たきりでコミュニケーションも鉛筆を咥えてノートに綴るしかない状況。
どちらも想像するのがきつい。
こうした介護生活の中で時子は次第に狂気に目覚めていきます。
それと同時に時子を狂気に目覚めさせた社会の恐ろしさも表現されているような気がしました。
一人の人間を狂わせるまで放置する社会批判が隠されているのかもしれません。
それが江戸川乱歩の伝えたかったことだとしたら、そりゃ伏せ字だらけになってしまう。
こちらの短編集に収められている作品で凶行に及ぶ人々は同情を寄せてしまう人々が多いです。
例えば収録作『赤い部屋』の中には退屈だからちょっとした遊びで自分が関与しなくても死んでいたであろう人を死に追いやるのが趣味な人間の独白が綴られていますが、SNSで誹謗中傷を繰り返す人間の心境に似ているような気がします。
現代にも通じる狂気を発見してまた怖くなりました