ののの・ド・メモワール

その日観た映画や本や音楽の感想を綴ったりしています

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日記のように色々なこと(主に読書、映画、音楽)のアウトプットをしていきたいと思います。まれに雑記も書きます。
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ヌーヴェル・ヴァーグの名作『気狂いピエロ』

気狂いピエロ

 

 タイトルにがっつり差別用語が入っているゴダール監督の『気狂いピエロ』を観ました。

タイトルは『ピエロ・ル・フ』などに今後改題されるのかどうかは分からないけれど、人前で言うには勇気がいるタイトルです。

原作はアメリカの作家・ライオネル・ホワイトの『オブセッション』で2022年にこちらの原作が邦訳されたそうです。

 本作の主役・フェルディナンは妻と共に行ったパーティーから自宅に帰るとかつての恋人・マリアンヌがベビーシッターとして目の前に現れます。

その後フェルディナンはマリアンヌのアパルトマンにて共に過ごすも殺人事件に巻き込まれてしまい、盗んだ車で2人は南仏を目指す逃避行がテーマのロードムービーだと思います。

 全体的に青・白・赤とフランスのトリコロールカラーを基調にした色彩豊かな画面にB・ムービーチックな演出が節々に現れ、出てくる登場人物たちは何やら難しい会話をする。

即興的に撮られた映像なのにその全てがめちゃくちゃかっこよく、まるでピカソの創作ノートを眺めているような映像体験で「なるほど、これがヌーヴェル・ヴァーグか」と思った一作でした。

 マリアンヌ演じるアンナ・カリーナは元々モデルなだけあって衣装の着こなしがものすごくおしゃれです。

未だにファッション誌で取り上げられるのも分かります。

私はマドロスハットにTシャツとハイウェストパンツ姿のアンナ・カリーナが一番可愛いと思いました。

 2人の逃避行は行き当たりばったりでそこには計画性がありません。

逃避行中のオープンカーに乗って峠を降っているシーンではマリアンヌが脳天気なことをずっと喋っているとフェルディナンが突然振り返り

「ほらね。彼女は楽しいことしか考えてません。」

といきなりこちらに向かって語りかけられ、それに対してマリアンヌは

「誰に話してるの?」

フェルディナンは

「観客のみなさん」

と答えるメタフィクションな一連のシーンが私は一番好きです。

 ただこのような和気あいあいとした逃避行ではあるのですが、ゴダールの今後に繋がる政治に対する言及もところどころで見られました。

当時激化していたベトナム戦争に対してフェルディナンやマリアンヌは語ります。

気狂いピエロ』以前にもアルジェリア戦争を題材にした作品が検閲にひっかかり公開中止になった経緯もあったのに、この不屈の闘志は恐れ入ります。

 よく考えたら第二次世界大戦後も連合国側はあちらこちらで代理戦争をやっており、フランスもインドシナ戦争アルジェリア戦争と植民地で戦っています。

 ジャン=リュックはこれらの戦争を真摯に受け止め、マリアンヌというフランスの擬人化・自由の女神と同じ名前の女性をしれっと作品に落とし込んでいるのはだと感じました。

 そんな彼らにアンチ・アメリカなことを言わせているのはゴーリストに対する皮肉なのか

そう思うと結構政治的な作品です。