ののの・ド・メモワール

その日観た映画や本や音楽の感想を綴ったりしています

閲覧いただきありがとうございます。
日記のように色々なこと(主に読書、映画、音楽)のアウトプットをしていきたいと思います。まれに雑記も書きます。
実用的なことは書けませんがよろしくおねがいします

屋根もなく法もなく・・・『冬の旅・さすらう女』

冬の旅・さすらう女

 アニエス・ヴァルダ監督の『冬の旅・さすらう女』を観ました。
原題は『屋根も法もなく』で邦題は『冬の旅』または『さすらう女』です。

タイトル通り屋根も法もなく自由に身を任せ南仏の田舎をさすらう若い女性の物語。

 あらすじだけ聞くと楽しそうでドラマチックな展開を期待してしまいますが、本作は全くそんなことはありません。

というのも上映開始早々に若い女性の凍死体が現れ、彼女が何者であるのか調査するために警察が彼女と面識があった人々に訪ね歩くことからストーリーは始まります。

 以降はシネマ・ヴェリテ風なインタビューと劇映画が組み合わさった構成が続きます。

凍死体で発見された女性の名前はモナ。

彼女の信条は「楽して生きる」という至極シンプルなもので、それに従ってひたすら野宿と手巻きタバコを巻くことを繰り返しています。

ただこの「楽して生きる」というのが本当に彼女の信条なのかは分かりません。

 またモナはすごく汚く、髪の質感も何日もシャワーも入浴もしていないであろうことが伺え荷物も泥に塗れています。

最初にモナの姿を観たときに「なんやこいつ。汚いなあ」と思いました。

作中の人物たちも好意的にモナを受け入れる人々と私と似たような拒絶反応をする人々に別れています。

 モナは前者の人々に助けられますが、後者の人々からは理不尽な扱いを受け仕方なく放浪の旅を続けるのが今作です。

モナ自身が放浪の旅を望んで行っていたかはかなり疑問が残ります。

自分から望んで行っているというよりは強いられているといった方が正しいと思います。

おそらくですが、何かきっかけがあれば彼女はいつでも旅を止めていたのでしょう。

 しかし、彼女は自分に対して拒絶反応を示す人々により自分が見つけた拠り所から追い出されてしまい挙句の果てに凍死してしまいます。

 彼女の旅は拒絶され追い出されるアウトサイダーの差別と偏見の旅であったのかもしれません。

 ただ観客は2時間近くに渡り彼女を見守る中で段々とモナが愛らしくなってきます。

作品序盤はモナの汚さ相まって「これつまらんな」とほぼ惰性で観ていたのですが、終盤ではすっかりとこの世界に魅了される自分がいました。

この効果がアニエス・ヴァルダの計算の内だと思うと畏敬の念を抱きます。

どんどんとみすぼらしく汚くなっていくのに、その姿を応援したくなる気分にもなります。

その願いは叶わずに最後は畑の側溝へ落ちてしまい、冒頭のシーンに繋がることを見せつけられてしまいます。

 差別や偏見はパーソナリティをいかに知らないかで発生してしまう事、そして自分にも差別的で偏見めいたパースペクティブが備わっていることを再確認する作品でした。