ののの・ド・メモワール

その日観た映画や本や音楽の感想を綴ったりしています

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ストーリーとモノクロの映画 『ことの次第』

ことの次第

 ヴェンダース監督の新作ドキュメンタリーが6月21日から公開されるようなので、ヴィム・ヴェンダース監督作の『ことの次第』を観ました。

ポルトガルリスボン近郊の都市シントラにてポストアポカリプスSF作品『ザ・サバイバー』をモノクロで撮影している映画監督のフリードリヒは撮影監督のジョーからフィルムが尽きたこととプロデューサーのゴードンが失踪したことを知り、作品の製作を一時中断する事態に発展し、こうして撮影隊はポルトガルに留まらざるをえないことになるというプロットです。

 今作の大きなテーマは物語であると思います。

フリードリヒがホテルの食堂にてクルーたちに撮影中断を知らせるシーンでは「物語は物語の中にしか存在しない」と演説し、クルーの内の一人がそれを紙ナプキンに書き殴るショットで観客に今作のテーマを提示しているようでした。

 しかし、物語が大きなテーマの今作に私が想像する映画のストーリーはありません。

映画のストーリーといえば三幕構成のハリウッドメイドなものを私は想像しますが、今作は最初の1時間30分程ずっとポルトガルに留まってクルーたちの様子を描いています。

そしてその後にフリードリヒがロサンゼルスへ向かい、あっけなくゴードンを探し今作はあっけないラストを迎えます。

 それでは最初の1時間30分なにをしていたかという問いにフリードリヒが今作終盤で語っているようなセリフがあります。

フリードリヒはゴードンを見つけ彼と夜通しのドライブの中で「人と人との空間に映画は作られる」と語っています。

それに対してゴードンは「物語がないと映画は作れない」と反論しています。

このやりとりはヴェンダース監督がハリウッドで撮った『ハメット』の制作時に交えていそうな会話で印象的でした。

 今作は人と人との空間をずっと撮っていた作品であり、この作品で見せられていたものの中に今作の第二のテーマが浮かび上がります。

 そのテーマはモノクロ(白と黒)とカラー(色彩)だと思います。

作中でサミュエル・フラー演じる老撮影監督・ジョーが「白黒の方がカラーよりもリアリスティックだ」と語ります。

なぜ白黒のほうがリアリスティックなのか、それはフリードリヒの妻・ケイトが海岸にて絵を書いている際に「この世は光と影でできている。絵はその明暗を分けるだけ」というセリフにその答えの一片がありそうです。

今作で語られるモノクロとカラーではリアリスティックが指すものの違いがあるように思いました。

 色彩があるなしを除いて、私が思う両者の違いは被写体のフォルムだと思います。

モノクロの世界ではカラーよりもフォルムの境界がかなりあやふやであるように感じます。

モノクロはぼわっとしていてカラーはくっきりしている。その曖昧な境界に人と人の間にある空間がぼわっと交わっているように見える。

ヴェンダース監督が撮りたかったのは、その一瞬なのかもしれません。

人と人の間に在るものをずっと撮り続けている作品だと思いました。