山深い湖の真ん中にぽつんと佇む寺院に暮らす和尚様と坊主の少年の物語。
季節が移ろう毎に少年は成長していき、水の表現が美しい作品でした。
本堂が浮かぶ湖から湖畔の正門までは春から秋まではボートで行き、冬は湖が凍りつくので歩いて正門まで渡ります。
春の章では、幼年期の坊主くんと和尚様の生活が描かれます。
山へ薬草へ採りにいき清流で動物と石を紐で結んで動けなくなった様子を見て笑う坊主くん。
山の中に建つ仏塔や湖にかかるモヤや清流に泳ぐ鮎など自然を捉えたシーンが多く、これがとても美しいです。
動物をいじめて楽しむ坊主くんをじっと見つめる和尚様は坊主くんが寝ている隙に石を坊主くんにぐるぐる巻きにします。
ここからは昔話のような寓話的展開でした。
そして夏の章が始まり坊主くんは思春期真っ只中を迎え、一人の少女が寺院へ静養に訪れます。
坊主くんは少女の着替えやボディラインが分かるタイトなワンピース姿の少女に春の章のストイシズムに満ちた生活からいきなり煩悩との戦いへ。
本堂の中は敷居などは無くただ扉が2枚置いてあるだけで、その中で3人は共に暮らすことになり、ついに坊主くんは煩悩に負けます。
その際にいつもは扉から出入りして仏像を拝んでいた坊主くんですが、少女に誘われた時は扉を無視して少女に向かっていきます。
これは道を逸れてしまった演出なのかなと思いました。
またこの少女が坊主くんを誘うシーンもセクシーというよりは艶っぽいという印象で被写体の捉え方の上手さにびっくりしました。
調べてみるとキム・ギドク監督は元々画家のようだと知り、画家出身の監督だと被写体との距離関係をこんなに的確に掴んでしまうのかと感嘆しています。
とてもさっきまで自然の美しさを映してきた作品とは思えない官能的なパートです。
秋の章になると坊主くんはもうすっかり大人で坊主さんになっています。
しかし坊主くんは夏の章で出会った少女を追って寺院から出ていったので数十年ぶりに寺院へ帰郷します。
和尚様とギクシャクしながら暮らし過去の過ちを告白し本堂に籠もります。
その際に「閉」と書かれた紙片を目と口にくっつけて祈り続けます。
この作品では喜怒哀楽の描写が抑圧されており、観客はそれらを想像するしかありません。
そうしている間に和尚様は猫を抱きかかえ尻尾を墨汁に浸し本堂の縁に般若心経を書いていきます。
坊主くんに過ちを見つめるために般若心経を彫れと言いつけ見守ります。
本堂にはいつしか刑事2人がやってきて坊主さんの写経を見つめています。
ここからは心温まる展開で秋を思わせます。
冬の章では坊主くんはもうすっかり中年になり、坊主くん役をキム・ギドク監督が演じています。
和尚様は亡くなり、次は坊主くんが寺院の和尚になります。
そうしていると子供を抱え顔を布で覆った女性がやってきて本堂で祈りを捧げた後に子供を置いていきます。
冬の章は湖も凍てつく寒冷地に寺院は変わり、それに呼応するように静かで内省的な作品へ変わります。
そして春が来て、坊主くんは和尚様になり新たな坊主くんを育てる輪廻を思わせるような最後を迎えます。
素晴らしい作品でした。