ビョークが『ダンサー・イン・ザ・ダーク』に出演した後に発表された『ヴェスパタイン』はフォークトロニカとトリップホップの成分が強く、音楽ジャーナリストたちが大概ビョークのベスト・アルバムに挙げる作品です。
暗く陰鬱とした美しいHidden place、cocoonと続いてカタルシスに至るIt's not up to youとこの3曲だけで十分に満足してしまうクオリティ。
しかしこれだけに終わらずundo、pagan poetyとまた名曲が続き前半部が終わります。
frostiから後半部が始まり、こちらもどんどんと深みに落ちていくようなaurora an echo a stainからharm of willと壮大な曲までバラエティに溢れています。
そしてラストを飾るのは希望を感じる賛美歌のようなunison。
名盤すぎて気軽に聴いてはいけない一作だと私は思っていますが、今作を聴きまくった時期がありました。
それはコロナ禍最初期の20年4月、ちょうど緊急事態宣言という戦争でも始まったのかと思ってしまう厳つい宣言が出された頃です。
不要不急の外出を避けるよう叫ばれていましたが、私はよく奈良の春日大社に行っていました。
もし道中で誰かさんに何かいちゃもんをつけられても「コロナ収束の祈りのために来ました」といえば大丈夫だろうと思って参拝していた際に聴いていたのが『ヴェスパタイン』でした。
人がほとんどいない参道を歩きながらこのアルバムを聴く体験は贅沢な体験でした。
春日山原始林の中をhidden placeを聴きながら一人で社殿に向かって歩く時は先行きが分からないパンデミックの中で心が落ち着く瞬間でした。