ののの・ド・メモワール

その日観た映画や本や音楽の感想を綴ったりしています

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日記のように色々なこと(主に読書、映画、音楽)のアウトプットをしていきたいと思います。まれに雑記も書きます。
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差別と偏見の中で生きる映画『不安は魂を食いつくす』

不安は魂を食いつくす

 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作の『不安は魂を食いつくす』を観ました。

アパートで独りで暮らすエミがある日入ったバーで出会ったモロッコからの出稼ぎ労働者のアリと出会い彼と結婚し共に暮らすようなるというストーリーです。

 この作品はなかなか消化できない作品で、今作のテーマは差別の中で抑圧される人々であると思われ、モロッコ人のアリへの嫌悪ぶりは凄まじいものでした。

エミが暮らすアパートの住人たちや職場の同僚たちは直接彼女には言いませんが、夫がモロッコ人というだけでエミを避けるようになります。

また非白人の外国人に対して今作が公開された70年代と現代でさしてイメージの違いがなさそうなのが見て取れてびっくりしています。

作中には東欧からの出稼ぎ労働者も現れますが、アリに対する嫌悪感は見られずむしろ同情される存在として現れていたので、現在は分かりませんが当時のドイツでは白人と非白人の間には埋められない溝がありそうだと思ってしまいます。

その点をファスビンダー監督は誇張しているのか判断がつかないくらいに自然に映し、批評しています。

ファスビンダー監督は今作の中でナチズムに真摯に向き合う姿勢を崩さずに、ナチズムの精神が当時のドイツ社会で忘れ去られることに対する警鐘でもあると思います。

しかし、このようなゼノフォビアは別にドイツに限った話ではないので私もちゃんと観ました。

 この映画を観ている最中、私はメスト・エジルが差別を受けていたことを思い出さずにはいられませんでした。

差別とは社会的に認められているようないじめのように私は思います。

ヘイトスピーチ規制法が制定されたりと様々な試みがなされていますが、それでも差別解消には程遠いのかもしれません。

一度自分のほうが優位と勘違いする差別者とそれにじっと耐える被差別者の構図は一体どうしたらいいのかと考えるだけで胸が痛くなります。

部落差別という恥ずべき歴史を持つ地域に生まれた身としては本当に申し訳ない気持ちで一杯です。

そして差別を解消するには相手のことを知る以外に有効な手立てがないように思います。

結局相手のことを一人の人間だと認知できない限り偏見に基づく差別が消えることはないでしょう。

まあこんな偉そうなことを書きましたが、メンタルが不安定な時の私はムカつく人に接した時に差別的なことを思うことが多々あるので言う権利ないんですけどね。

ただ私は差別的感情に今のところは適応できているようで、ムカつくあまり実際に相手に悪口を言うことはありません。

私はイラッとしたら口が悪くしかも咄嗟に悪口を言ってしまう厄介なタイプの人間ですが、アンガーマネージメントのトレーニングでなんとか溜飲を下げています。

そのためか周りから私は温厚だと思われているそうですが、内心では大概めちゃくちゃキレています。

しかし、この怒りのエネルギーがあるからこうやってブログなども書けるわけなので最近はイライラに感謝するくらい悟りの境地に達しつつあります。

レーニングでなんとかなるので、きっと誰しもできます。

ただ万人に適用できる方法はよく分かりませんが、私はイライラしたときやムカついたときは目を閉じてブッダが瞑想している様子を思い描いています。

どういう理屈か分かりませんが、これが私にとっては効果てきめんでした

そしてイライラした時は心のなかで罵詈雑言を思って精神衛生を改善するだけに留める姿勢が大事なように思います。

だからネットとかで書くのはやめて、イライラすることを書くなら日記が一番オススメです

 閑話を休題し本作に戻ると今作の中には、あらゆる種類の不安が包括されています。

まず孤独の不安と異なった文化圏から来た得体の知れない者への不安が今作で写し取られ、差別する側とされる側の不安が交錯しているように絡み合っています。

その不安の中で生きていくには他者を嫌悪してしまったり、それを真に受けて自分を貶してしまうのは仕方のないことなのかもしれません。

寛容であるには自分自身に余裕がないと厳しいでしょう。

 作中ではエミはアリに出会ったことで、心の孤独から少しばかり解き放たれます。

アリと共に生きる中で彼が経験していることも同時に目の当たりにし深く嘆き悲しみますが、アリはただそれを受け入れています。

今作の面白いところはアリが一切差別に抵抗せずにただ受け入れている様子がラストに繋がるところです。

なんとも辛い気持ちになる作品でした。