イランのミステリー映画を観ました。
去年の今頃に鑑賞したアッバス・キアロスタミ監督作『桜桃の味』以来のイラン映画になります。
桜桃の味は印象深い作品であの感動をありありと思い出せます。
あれから1年経つのか。はやい。
・彼女が消えた浜辺 アスガル・ファルハーディー監督
3家族でカスピ海へバカンスに行く計画を立て、その内の一人セピデーはドイツから一時帰国中で離婚したばかりの友人アーマドのために幼稚園の先生エリーを誘い浜辺の別荘に向かうというあらすじ。
浜辺の別荘で物語は進みます。
別荘内のシーンは先月観たミケランジェロ・アントニオーニの『赤い砂漠』で港の監視員小屋でのパーティを彷彿とさせるようなカメラワークでした。
一部屋で物語が進行するため画面はどうしても退屈になってしまう中であるときは定点だったりパンしたりと撮影と演出が全体を補っていました。
それでいて演出が過剰になることはないファルハーディー監督のバランス感覚は素晴らしいです。
ストーリーは前半40分辺りから徐々に動き出し、共にバカンスを過ごしているショーレとペイマン夫妻の息子アラーシュが海で溺れ皆で救助し無事に助かり一同が安堵している中でエリーが消えていることに気づきます。
エリーが勝手に帰宅したのかアラーシュを助けに海へ飛び込んだのかとミステリーの様相を呈してきます。
このあと謎を一つ一つ解き「真実はいつもひとつ!」と万事解決なミステリー展開ではなく、バカンス中に予期せぬ出来事が起きてしまった人々に焦点を当てたヒューマンドラマだと私は思いました。
エリーの家族に事件を伝えるために嘘をつき遠回りにエリーが消えたことを伝えようとする中で嘘は幾層に折り重なって観ているこちらも混乱してきます。
嘘をついている内に嘘を被せていって混乱してしまうときの疑似体験のような感覚でした。
私はこの作品を観ている最中「私も同じことするだろうな」とずっと思っていました。
ついていい嘘と悪い嘘の境ってどこなのだろう